相続した空き家を近いうちに売る可能性があるなら、子への贈与を先に進めないのが基本です。贈与すると、贈与税の計算に加え、所有権を移す登記とその費用が必要です。さらに、贈与で取得した子が売っても、相続人が売る場合の特例を通常使えません。
最初に行うのは、不動産会社へ売却価格を査定してもらい、取得時の契約書、固定資産税評価証明書、相続税申告書をそろえることです。その資料で「自分が売る案」と「子へ贈与する案」の概算手取りを比べます。
特例の適用可否や贈与税は税理士、登記名義と手続きは司法書士へ確認します。特例期限が近い、取得費が分からない、共有者がいる場合は、売買契約や贈与登記の前に相談してください。
相続した空き家は『贈与前に売却条件を確認』が基本
相続人本人が売る場合と、子へ贈与する場合では、負担が生じる時期と確認する制度が違います。まずは税額ではなく、何に費用がかかるかを同じ表で整理しましょう。
| 比較軸 | 相続人本人が売却 | 子へ贈与 |
|---|---|---|
| 主な税・費用 | 譲渡益への税金 | 贈与税・登記費用など |
| 発生時期 | 売却・確定申告時 | 贈与・登記時 |
| 確認する特例 | 空き家特例・取得費加算 | 暦年課税・精算課税 |
| 向きやすい状況 | 近く売却する予定 | 子が居住・長期保有 |
贈与は売却前の費用が増えやすい一方、子が実際に住み、長く保有する予定なら、贈与も選択肢に入ります。税金だけでなく家族の利用目的を先に決めることが重要です。

自分名義で売却するときに確認する2つの特例
空き家3,000万円特別控除は家と売り方の条件を確認
被相続人が住んでいた家を相続人が売る場合、一定の要件を満たすと譲渡所得から最高3,000万円を控除できることがあります。2026年8月時点では、2027年12月31日までの譲渡が制度の対象です。
ただし「相続した空き家なら使える」という制度ではありません。対象家屋、相続後の利用状況、売主、売却期限、売却代金などを一つずつ確認する必要があります。
- 家屋が原則として1981年5月31日以前に建築され、区分所有建物ではない
- 相続開始の直前に、原則として被相続人以外の人が住んでいなかった
- 相続から売却まで、事業・賃貸・居住に使っていない
- 相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売る
- 売却代金が1億円以下で、親子など特別な関係の人への売却ではない
2024年以後の譲渡では、売却後から翌年2月15日までに耐震改修や全部取壊しをした場合も、一定条件で対象になりました。買主の協力が必要になるため、適用を見込むなら売買契約の特約も確認します。
対象財産を取得した相続人が3人以上の場合、2024年以後の控除上限は2,000万円です。共有者の人数と持分も、登記事項証明書や遺産分割協議書で確認してください。
相続税の取得費加算は空き家特例と選んで使う
相続税が課税された人が、相続した財産を一定期間内に売る場合、相続税額の一部を取得費へ加算できることがあります。取得費が増えると、課税対象となる譲渡所得を抑えられる可能性があります。
期限は、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。相続税が課税されていない人は対象にならず、適用には確定申告が必要です。
同じ譲渡資産について、空き家3,000万円特別控除と取得費加算は併用できません。どちらを使うと税負担を抑えられるかを、売却契約前に税理士へ試算してもらいます。
子どもへ贈与するとかかる税金と登記費用
暦年課税と相続時精算課税は不動産評価額で確認
贈与税の申告・納付が必要な場合、手続きをするのは財産を受け取った子です。贈与税の計算に使う評価額は、売却査定額や固定資産税評価額と同じとは限りません。
暦年課税には年110万円の基礎控除があります。相続時精算課税にも2024年以後は年110万円の基礎控除が設けられましたが、最高2,500万円の特別控除とは扱いが異なります。
相続時精算課税は、贈与時だけで税負担が完結する制度ではありません。「2,500万円まで非課税」とは限らないため、贈与者が亡くなったときの相続税や他の財産も含めて確認します。
登録免許税と不動産取得税は贈与時に別途確認
贈与による所有権移転登記の登録免許税は、原則として不動産価額の2.0%です。相続による所有権移転登記の原則0.4%と比べると、贈与時の負担が大きくなります。
相続による不動産取得は不動産取得税が非課税ですが、生前贈与は別です。相続時精算課税を選んでも、不動産取得税の扱いまで相続になるわけではありません。
不動産取得税の税率や軽減措置は、所在地や建物の用途・床面積などで確認事項が変わります。固定資産税評価証明書を用意し、物件所在地の都道府県税事務所へ確認してください。
贈与か売却かを決める5つの判断軸
どちらが有利かは、税率一つでは決まりません。次の5項目を同じ前提で確認し、家族の目的と最終的な手取りを合わせて判断します。
- 子の利用目的:自分で住むのか、賃貸するのか、近く売るのか
- 売却特例の期限:空き家特例と取得費加算を検討できる期間か
- 取得費と売却価格:譲渡所得と概算手取りはいくらになるか
- 贈与時の総費用:贈与税、登録免許税、不動産取得税、専門家報酬
- 名義と家族合意:共有者、管理者、費用負担、将来の処分方針
近く第三者へ売るなら、相続人本人が特例を使って売る案から確認します。子が実際に住む、または長期保有する明確な目的があるなら、贈与案も同じ資料で試算します。
共有名義の場合は、一人の判断だけで売却や贈与を進められません。遺産分割協議書、登記事項証明書、共有者の意向をそろえてから、具体的な契約条件を比較してください。
名義変更の前に比較する4ステップ
贈与登記や売買契約の後で特例対象外と分かっても、手続きを簡単にはやり直せません。税や登記費用を支払う前に、次の順番で資料と数字をそろえましょう。
- 名義と利用目的を確定:登記事項証明書で所有者・持分を確認し、子が住むか売るかを決める
- 特例期限を確認:相続日、売却予定日、建築日、相続後の利用状況を時系列にする
- 両案の概算手取りを比較:査定額、取得費、譲渡費用、贈与時の税・登記費用を同じ表にする
- 契約前に専門家へ確認:税理士に税・特例、司法書士に登記、不動産会社に売却条件を確認する
用意する資料は、登記事項証明書、固定資産税評価証明書、購入時の契約書・領収書、相続税申告書、遺産分割協議書、不動産会社の査定書です。見つからない資料も一覧にして伝えます。

相続登記が未了なら、売却・贈与の比較と並行して期限も確認してください。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が原則で、登記の進め方は司法書士または法務局へ確認できます。
相続空き家の贈与・売却で迷う疑問
子どもへ安く売れば贈与税を避けられますか?
判断点を先に確認します。著しく低い価額で売ると、時価と代金との差額が贈与とみなされる場合があります。親子など特別な関係の人への売却は空き家特例の対象外でもあるため、価格を決める前に税理士へ確認してください。
贈与後に子どもが売ると空き家特例は使えますか?
この特例の売主は、相続・遺贈で対象財産を取得した相続人である必要があります。贈与で取得した子は通常この要件を満たさないため、贈与登記前に相続人本人が売る案と比較します。
税理士・司法書士・不動産会社の誰に相談しますか?
税額と特例の選択は税理士、相続・贈与登記は司法書士、査定と売買条件は不動産会社へ確認します。空き家特例の確認書は物件所在地の市区町村が窓口となるため、必要書類を早めに照会してください。
まとめ|贈与登記より先に特例と手取りを比べる
相続した空き家を近く売るなら、子へ贈与する前に、相続人本人が空き家特例や取得費加算を使えるか確認します。贈与後は、贈与税、登録免許税、不動産取得税も含めて判断が必要です。
子が住む・長期保有する目的がある場合は、贈与案も比較対象に入ります。利用目的、特例期限、取得費、売却査定額、贈与時費用を同じ条件で並べてください。
名義変更前に両案の概算手取りを比べることが、取り返しにくい税・登記の判断ミスを防ぐ第一歩です。資料をそろえ、税理士と司法書士へ契約前に確認しましょう。

