親が認知症になる前に実家を売却・賃貸する備え|確認順と制度の違い

実家の売却・賃貸前に名義・本人の希望・利用目的を確認することを示す図

親が認知症になる前に実家の売却・賃貸へ備えるなら、最初に確認するのは登記名義・本人の希望・売るか貸すかの目的です。いきなり制度を選ぶのではなく、「誰の家を、何のために、いつ売る・貸すか」を家族でそろえます。

認知症と診断されたからといって、すべての契約が直ちに無効になるわけではありません。重要なのは、売却や賃貸の契約時点で本人が内容と結果を理解し、自分の意思を示せるかどうかです。

一方、本人確認が難しくなってから子が委任状を作ることはできません。迷いがある段階では、登記事項証明書と親の希望を書いたメモを用意し、司法書士や弁護士、不動産会社へ確認する順番を決めておくと動きやすくなります。

認知症の診断だけで実家を売却・賃貸できなくなるわけではない

不動産の所有者が親なら、売る・貸す契約をするのは親本人です。子どもであっても、親の財産を当然に売ったり貸したりできるわけではありません。

契約には、内容や損得、契約後に家へ戻れるかといった結果を理解する力が必要です。認知症の有無だけで一律に決めず、行う契約の内容と契約時点の状態に沿って個別に確認されます。

  • 親の返事が曖昧なまま、家族だけで売却条件や賃貸条件を決めない
  • 古い委任状があるだけで、現在も同じ権限を使えると判断しない
  • 施設へ入所したから、実家は居住用不動産ではないと決めつけない

意思確認に不安があるときは、家族だけで可否を決めないことが大切です。本人の状態を知る医師の情報も用意し、契約実務を扱う司法書士・弁護士・不動産会社へ早めに相談します。

実家を売る・貸す前に確認する3つの順番

最初の家族会議で制度名から話し始めると、親の希望が後回しになりがちです。次の3項目を順に確認すると、生前売却、賃貸、民事信託、任意後見のどれを比較すべきか絞れます。

  1. 登記名義と権利関係を登記事項証明書で確認する
  2. 住み続ける・戻る・手放すという本人の希望を言葉にする
  3. 介護費の確保・空き家回避・資産管理など目的を一つずつ整理する
実家を売る・貸す前に登記名義、本人の希望、利用目的を順に確認する図

1.土地と建物の名義、共有者、抵当権を確認する

固定資産税の通知書に載る人と、登記上の所有者が同じとは限りません。土地と建物の名義が違う、共有名義である、抵当権が残っている場合は、手続きの当事者や必要書類が変わります。

まず法務局で登記事項証明書を取得し、土地と建物を分けて見ます。住所変更や相続登記が未了なら、売却査定より先に司法書士へ登記手続きの順番を確認すると混乱を減らせます。

2.親が今後どこで暮らしたいかを確認する

売却は、契約を終えると原則として元の家へ戻れません。賃貸も、貸した期間は自由に使えず、修繕や入居者対応など所有者側の判断が続きます。

親が「施設から戻る可能性を残したい」「管理の負担を減らしたい」など、何を優先するかを書き出します。本人の言葉を家族が勝手に置き換えず、日付とともに記録しておくことが準備の出発点です。

3.売却代金や家賃を何に使うか決める

「介護費に充てる」「空き家の維持費をなくす」「家賃収入を生活費にする」では、向く方法が異なります。必要な時期、必要額、管理を担える家族がいるかも一緒に確認します。

賃貸では、家賃収入だけでなく修繕費、税金、管理委託の範囲も検討が必要です。売却・賃貸の収支は物件条件で変わるため、不動産会社の査定や賃料調査を一社の説明だけで決めないようにします。

判断能力が低下した後は家族だけで契約を進められない

本人の意思確認ができなければ売買・賃貸契約は止まる

親名義の家を子が代わりに処分するには、有効な代理権が必要です。本人が契約内容を理解できない段階になってから、新たな委任状を作って解決することはできません

過去に委任を受けていても、権限の範囲、作成時の本人の状態、契約相手の本人確認などが問題になります。書類の有無だけで進めず、契約前に専門家へ確認します。

法定後見は本人保護の制度で、自由な処分権ではない

判断能力が不十分になった後は、家庭裁判所へ法定後見の申立てを検討します。状態に応じて後見・保佐・補助があり、家庭裁判所が本人を支援する人と権限を決めます。

法定後見人等が本人に代わって居住用不動産を処分する場合、家庭裁判所の許可が必要です。対象には売却だけでなく、賃貸借契約の締結・解除や建物の取り壊しなども含まれます。

許可は「家族にとって便利か」ではなく、処分の必要性や本人の生活への影響を踏まえて判断されます。施設入所前の家や将来戻る可能性がある家も、居住用不動産に含まれることがあります。

なお、成年後見制度を見直す法律は2026年6月に公布されましたが、成年後見関係の改正は施行前です。実際に手続きを始める時点で、法務省や家庭裁判所の最新案内を確認してください。

親が元気なうちに比べたい3つの備え

生前売却、民事信託(家族信託)、任意後見は、同じ目的の制度ではありません。始められる時期と任せられる範囲を比べ、親の暮らし方と家族の管理力に合う方法を選びます。

備え始める時期主な目的先に確認する点
生前売却本人が意思表示できる間家を手放し資金化住まい・税金・売却条件
民事信託信託契約を理解できる間契約範囲の財産管理受託者・権限・登記・税務
任意後見契約を理解できる間将来の代理人を決める公正証書・代理権・監督人
親が元気なうちに検討する生前売却、民事信託、任意後見の3つの分岐図

生前売却は住まいと資金の使い道を先に決める

本人が内容を理解して契約できる間に売却すれば、通常の不動産売却として進められます。管理負担を減らし、売却代金を介護費や住み替え費へ回したい家庭の選択肢です。

ただし、家を手放した後の居場所、家族間の合意、譲渡所得の税務確認が欠かせません。売却価格だけで決めず、親の生活費を含む資金計画を税理士や不動産会社と整理します。

民事信託は契約で受託者の権限を具体化する

民事信託は、親が財産を託し、受託者となる家族などが信託目的に沿って管理・処分する仕組みです。不動産を信託財産に含め、売却や賃貸を任せたい場合は、その権限を契約で具体的に設計します。

契約に書かれていない権限まで自動で得られるわけではありません。受託者の負担、信託登記、税務、親の死亡後の扱いまで、民事信託に詳しい弁護士・司法書士・税理士へ確認します。

任意後見は将来の代理人と代理権を公正証書で決める

任意後見は、本人の判断能力が十分なうちに、将来任せたい人と事務の範囲を公正証書で定める制度です。判断能力が不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると効力が生じます。

契約を結んだだけで直ちに任意後見人が動けるわけではなく、代理できるのも契約で定めた範囲です。実家の管理・売却・賃貸を想定するなら、対象不動産と権限を具体的に相談します。

家族会議から専門家への相談までの進め方

制度を一つに決めてから相談する必要はありません。親の希望と不動産の状態を資料にし、法務・税務・不動産実務をそれぞれの専門家へつなぐ方が、前提の食い違いを防げます。

STEP.1 親の希望を短い言葉で残す

住み続けたいか、戻る可能性を残すか、売却・賃貸のどちらを許容するかを日付とともに記録します。

STEP.2 名義と物件資料をそろえる

登記事項証明書、固定資産税の通知書、権利証や登記識別情報、ローン資料、賃貸中なら契約書を確認します。

STEP.3 課題ごとに相談先を分ける

登記や信託は司法書士・弁護士、税金は税理士、価格や賃貸条件は不動産会社へ確認し、回答を家族で共有します。

どこへ相談すべきか迷う場合は、名義の問題か、建物の状態か、売る・貸す目的かをメモで分けます。相談内容を一つにまとめると、どの専門家にも同じ前提を伝えられます。

認知症と実家の売却・賃貸で迷いやすい点

認知症と診断された後でも実家を売却できますか?

判断点を先に確認します。診断名だけで一律には決まりません。契約内容を理解して意思を示せるかを契約時点で個別に確認し、難しい場合は法定後見などの手続きを検討します。

子どもが委任状を持っていれば売却できますか?

委任時の本人の状態、委任事項、現在の本人確認などが問題になります。判断能力が失われた後に新しい委任状を作ることはできないため、契約前に司法書士や弁護士へ確認してください。

売却より賃貸の方が簡単ですか?

賃貸借も契約であり、修繕や管理の判断が続きます。法定後見人等が居住用不動産を新たに貸す場合は家庭裁判所の許可対象になるため、単純に簡単とはいえません。

実家の方針は親の希望を言葉にできるうちに決める

実家の売却・賃貸で最優先するのは、制度を契約することではなく、親が家と今後の暮らしをどうしたいか確認することです。そのうえで、名義と権利関係、資金の目的を整理します。

本人の意思確認が難しくなってからでは、選べる方法が限られ、必要な手続きが増えることがあります。まず登記事項証明書と家族会議のメモを用意し、実家の権利関係に応じて司法書士・弁護士・税理士・不動産会社へ相談してください。