親から引き継いだ実家が空き家になっているけれど、相続登記はまだ済ませていない。そんな状況を「売るときにやればいいか」と置いておいている方は、少なくないと思います。
しかし、その判断が「売りたいのに売れない」状態を引き起こす直接の原因になります。相続登記をしないことで何が起きるのか、実務上どんな問題になるのかを、わかりやすく整理しました。
相続登記なしでは、そもそも売却の土台に立てない
不動産を売るとき、名義人と売主が一致していることが前提です。
相続登記をしていない場合、物件の名義は亡くなった被相続人のまま。この状態では、買主への所有権移転登記ができません。
民法177条により「不動産の権利変動は、登記がなければ第三者に主張できない」とされています。法律の専門家の説明によると、登記がなければ相続人であることを買主に証明できず、取引が成立しないのです。
実務でも同様で、多くの不動産会社は相続登記が済んでいない物件の媒介契約を結びません。金融機関の融資も通らないため、相続登記未了の空き家は、事実上「売却不能」の状態に置かれます。
「相続人全員が同意すれば売れるのでは」と思う方もいますが、同意があっても登記がなければ名義の移転手続きを完了できないため、取引は完結しません。これが実務上でよく見られる誤解です。
2024年4月から義務化、「後でまとめて」はもう通用しない
2024年4月1日、不動産の相続登記が法律で義務化されました。
相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をする義務が生じます。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
さらに見落としがちなのが、過去の相続も対象になるという点です。政府広報によると、2024年4月1日より前に発生した相続についても義務化の対象で、2027年3月31日までに登記を行う必要があるとされています。
「うちの相続は昔の話だから関係ない」「売るときにまとめてやればいい」という考えは、もう通用しません。また、「売る予定があったから」という理由は相続登記を怠る正当な事由に該当しないというのも、専門家の間での共通した見解です。
放置すると雪だるま式に複雑化する3つのリスク
相続登記をしないまま時間が経つと、問題は単純な手続き漏れでは済まなくなります。
相続人がどんどん増える
相続人のひとりが亡くなると、その相続権がさらにその子や配偶者へ移る「数次相続」が起きます。10年以上放置されたケースでは、関係者が数十人規模になることも珍しくなく、全員の合意と書類収集が現実的に困難になります。法律事務所の報告でも、長期放置ほど遺産分割協議自体がまとまらないケースが多いとされています。
差押えや「知らない共有者」が出てくる
相続登記が未了の間に、相続人のひとりが借金を抱えていると、その人の持分が債権者に差し押さえられる可能性があります。さらに、その相続人が勝手に自分の持分を第三者へ売れば、見知らぬ人が不動産の共有者として登場することになります。
自分には一切借金がなくても、他の相続人の事情が空き家の処分全体を左右する。これが共有不動産のリスクです。
固定資産税が最大6倍になる可能性
空き家対策特別措置法により、管理が不十分な空き家が一定の指定を受けると、固定資産税の住宅用地特例が解除され、税負担が最大6倍程度になる場合があります。また、売却時に活用できる「3,000万円特別控除(空き家特例)」も、名義の整理が前提条件になるため、相続登記が済んでいなければ検討すら進みません。
今からでも動ける、現実的な対処の流れ
| 状況 | 優先すべき対応 |
|---|---|
| 相続から3年以内 | 早急に相続登記を進める(義務期間内でも早いほどリスクは小さい) |
| 10年以上放置・相続人多数 | 司法書士や弁護士に相談し、相続人の確認と遺産分割協議から着手する |
| 登記済みだが売却未着手 | 固定資産税の特例状況と空き家特例の適用可否を確認する |
相続登記の手続きは、戸籍・住民票・固定資産税評価証明書などの収集から始まり、遺産分割協議書の作成が必要になります。書類や相続人の数が多いケースでは、数週間から数か月かかることも一般的です。
自分で進めることもできますが、相続人が複数いる場合や長期放置のケースは、司法書士などの専門家に依頼した方がミスや遅延を防ぎやすくなります。費用は登録免許税(固定資産税評価額の0.4%程度)のほか、依頼する場合は専門家への報酬が別途かかります。
まとめ:空き家の相続登記を後回しにするほど、売れない状態が深まる
相続登記は「売却するときに済ませればいい」ではなく、売却するための前提条件です。登記がなければ不動産会社とも動けず、買主への名義移転もできません。
2024年の義務化により、過去の相続も含めて期限が迫っています。放置が長引くほど相続人が増え、差押えや税負担のリスクも積み重なります。
「うちはまだ大丈夫」と思っている方ほど、早めに状況を整理しておくことが後のトラブルを防ぐことにつながります。まずは司法書士などの専門家に現状を相談してみてください。

