相続した空き家を国へ引き渡したくても、建物付きのまま相続土地国庫帰属制度を申請することはできません。制度の対象は土地であり、建物がある土地は申請段階の却下事由です。
最初に確認するのは、土地と建物の名義、共有者、境界・担保権などの権利関係です。そのうえで売却や無償譲渡、自治体への寄付、国庫帰属を比べます。
解体や測量を先に契約しても、国庫帰属や寄付が認められるとは限りません。資料をそろえて公式窓口へ相談し、制度費用と整備費の総額を比べてから手放し方を決めるのが安全です。
相続した空き家・土地を手放す4つの方法
手放し方は国庫帰属だけではありません。相手が見つかる可能性、相続からの経過、建物の有無を踏まえ、次の4つを比較します。
| 方法 | 対象・特徴 | 最初の確認 |
|---|---|---|
| 売却・無償譲渡 | 土地・建物を相手へ移す | 需要、権利、税・登記費用 |
| 自治体寄付 | 自治体が個別審査 | 利用目的、換価性、管理負担 |
| 国庫帰属 | 相続等で得た土地 | 申請要件、手数料、負担金 |
| 相続放棄 | 財産と債務のすべて | 原則3か月の期間 |
まず売却・無償譲渡の可能性を確認します。相手が見つかれば、解体費や国庫帰属の負担金を払わずに済む場合があります。買い手・受け手が見つからないときは、自治体寄付と国庫帰属を並行して確認します。

相続放棄は、相続した後に不要な土地だけを外す制度ではありません。相続開始を知って間もない段階で、預金などの財産と借金を含む全体から判断します。
国庫帰属を申請できる人と引き取れない土地
相続土地国庫帰属制度は、相続した土地なら無条件で国が引き取る仕組みではありません。申請できる人と、土地の状態に関する要件を分けて確認します。
申請できるのは相続等で土地を取得した人
対象は、相続または相続人への遺贈によって土地の所有権や共有持分を取得した人です。2023年4月27日の制度開始より前に相続した土地も申請対象になり得ます。
共有地では、共有者全員で共同申請しなければなりません。売買などで持分を得た共有者がいても、相続等で持分を得た人を含む全員で申請する場合は利用できます。
建物・担保権・境界争いがある土地は申請できない
次の土地は、法務省が「申請をすることができないケース」として示す却下事由に該当します。とくに空き家の建物が残る宅地は、解体の要否を検討する前に他の処分方法と総費用を比べましょう。
- 建物がある土地
- 抵当権や賃借権などが設定されている土地
- 通路・墓地など、他人の利用が予定されている土地
- 特定有害物質で汚染されている土地
- 境界が明らかでない、または所有権の範囲に争いがある土地
境界については、確定測量がすべての申請で一律に必要とは限りません。ただし、申請する土地の範囲を示せず、隣地所有者との争いがある状態では進められません。
崖・工作物・樹木は管理の手間と費用で審査される
申請が受け付けられても、国が引き取った後の管理や処分に大きすぎる費用・手間がかかると判断されれば不承認になります。崖や工作物があるだけで決まるのではなく、土地の状態と管理への影響で審査されます。
- 一定の崖があり、擁壁工事などに大きな費用・手間がかかる
- 車両・工作物・危険な樹木などが管理や処分を妨げる
- 地下に除去しなければ管理・処分できない物がある
- 隣地の所有者などと裁判をしなければ管理・処分できない
- 災害防止や継続管理に大きな費用・手間がかかる
安全な柵や森林の樹木など、土地の性質上通常といえる物まで一律に不承認になるわけではありません。個別判断が必要なため、写真や図面を用意して法務局へ相談します。
国庫帰属にかかる費用は3つに分けて考える
国庫帰属の費用は、申請時の審査手数料、承認後の負担金、要件を整えるための制度外費用に分けます。負担金だけを見て予算を決めると、総額を見誤ります。
審査手数料は土地1筆ごとに1万4,000円
審査手数料は、土地1筆当たり1万4,000円です。申請書に収入印紙を貼って納め、申請を取り下げた場合や、却下・不承認となった場合も返還されません。
複数筆をまとめて申請しても、審査手数料は筆数分かかります。登記事項証明書で地番と筆数を確認してから、申請費用を計算しましょう。
承認後の負担金は土地の種類・面積で変わる
負担金は、国が管理する10年分の標準的な費用を考慮して算定されます。宅地・田畑・その他で20万円が基本となる土地がある一方、一定区域の宅地・田畑や森林は面積に応じた算定です。
すべての土地が一律20万円ではありません。土地の地目だけでなく、区域区分や面積を確認し、法務省の算定表や法務局で見込み額を確かめます。
このほか、建物の解体、残置物の撤去、境界資料の準備などが必要なら別費用です。作業の必要性は土地ごとに違うため、相談前に一律の工事を発注しないことが大切です。
法務局への相談から国庫帰属までの4ステップ
相談から所有権移転までは、準備・申請・審査・負担金納付の順です。相談で承認が決まるわけではありませんが、申請できない条件に当たりそうな点や、足りない資料を先に整理できます。
相談票、チェックシート、登記事項証明書、公図、土地・建物の写真などを用意し、インターネットで対面・電話・ウェブ相談を予約します。
土地所在地を管轄する法務局・地方法務局の本局へ、申請書と添付書類を提出します。この時点で1筆1万4,000円の審査手数料を納めます。
法務局が申請者、境界、権利、現況、管理負担を審査し、必要に応じて実地調査します。承認されるまでは所有者が草刈りなどの管理を続けます。
承認通知後、負担金の通知が届いた翌日から30日以内に納付します。納付時に土地の所有権が国へ移り、期限内に払わないと承認は失効します。
承認通知だけでは手続きは終わりません。納付期限を過ぎると、同じ土地でも最初から申請し直す必要があります。通知を受け取れる住所と資金準備も確認しましょう。

自治体への寄付は受入基準を先に確認する
土地の寄付は、全国共通の申請制度ではありません。自治体が条例や財産管理方針に基づき、利用目的、売却可能性、維持管理の負担などを個別に審査します。
たとえば名古屋市は、市の事業に利用できる土地や換価しやすい土地を受入対象としています。一方、境界未確定、抵当権等、維持管理困難、土壌汚染などがある土地は受け入れられない例として示しています。
この基準を他の自治体へそのまま当てはめることはできません。所在地の自治体へ先に確認し、管財・財産管理などの担当に、寄付の窓口、建物の扱い、必要書類、受入審査の基準を聞きましょう。
寄付を理由に先に建物を壊したり、抵当権の抹消費用を払ったりするのは避けましょう。受入可能性を相談し、売却や国庫帰属も含めた総費用を比べてから作業を決めます。
国庫帰属と相続放棄は対象と期限が違う
国庫帰属は相続した後に特定の土地を手放す制度です。相続放棄は、被相続人の財産と債務を一切受け継がないための家庭裁判所の手続きで、土地だけを選んで放棄することはできません。
| 比較項目 | 相続土地国庫帰属制度 | 相続放棄 |
|---|---|---|
| 対象 | 要件を満たす特定の土地 | 財産・債務のすべて |
| 判断時期 | 相続後に申請を検討 | 知った時から原則3か月以内 |
| 手続き先 | 法務局・地方法務局の本局 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 主な費用 | 審査手数料・負担金 | 申述手数料・郵便料など |
相続開始を知ってから3か月以内で、預金、借金、他の不動産も含めて受け継ぐか迷う場合は、国庫帰属だけで判断しません。財産調査と相続放棄の期限について、家庭裁判所の手続案内や弁護士へ早めに確認します。
すでに相続した土地だけを手放したい場合は、売却・譲渡、自治体寄付、国庫帰属を比較します。名義変更が未了なら、相続登記の期限と手続きも法務局や司法書士へ確認しましょう。
解体や測量の前に整理する4項目
相談前の資料が多いほど、対象外になりそうな点と追加費用を具体的に確認できます。すべてそろうまで待つのではなく、手元にある範囲から整理しましょう。
公式窓口へ相談する前に確認する項目
- 登記事項証明書で土地・建物の名義、地番、筆数、共有者を確認する
- 公図や測量図、現地写真で境界標、接道、崖、建物、残置物を確認する
- 抵当権、賃貸借、通路利用など第三者の権利・利用状況を確認する
- 固定資産税通知、解体・撤去の見積もり、希望する手放し時期を整理する
国庫帰属は法務局、自治体寄付は所在地の自治体、相続放棄は家庭裁判所が主な確認先です。登記は司法書士、相続や共有の争いは弁護士など、困っている論点に合わせて相談先を選びます。
空き家と土地を分けて確認し、手放し方を選ぶ
相続した空き家は、建物付きのまま国庫帰属を申請できません。まず名義・共有・建物・境界・権利を確認し、売却・無償譲渡、自治体寄付、国庫帰属の順に可能性と総費用を比べます。
解体や測量を先に決めず、登記事項証明書、公図、写真、固定資産税通知を手元にそろえてください。法務局や自治体への事前相談で不足条件を確認してから、費用と管理負担に合う方法を選びましょう。

